天安門広場で自転車を乗り回すパヴァロッティ
1986年、中国国務省文化部の招聘でパヴァロッティは二週間の滞在の為に、歌手、オーケストラ、コーラス、何人かのジャーナリスト、それに友人と母を除く家族など総勢300人と舞台装置、衣裳、2回のコンサートの為の音響装置、全員の荷物に加え、現地では手に入らない食糧(イタリアの町一つを一週間分養えるほど)、ミネラルウオーター1500本、ホテルの部屋で料理が作れる道具や冷蔵庫に加え、この旅行のドキュメンタリー映画を作るための二人のプロデューサー、スタッフ、撮影機材も一緒にボーイング747に積み込んで中国に渡ったのでした。
出発前にはキャスト全員でローマに行き、法王に公演旅行の安全を祈祷して貰うほど、パヴァロッティは信心深いのです。
「法王自ら賜るご加護に優る保険は無い!」 と。
なにせ初めての中国入りのこと、真夏の熱気漂う空気も別世界だったそうで、中でも印象に残った北京の最初の風景は、物凄い数の自転車に圧倒されたのでした。 床に穴が開いているだけのトイレにもビックリ仰天したことは云うまでもありません。
「郷に入れば郷に従う事です。もし私が否定的な発言をすれば、同行の全員が文句を云い始めるだろう。 文化の違うところへ行けば私自身が文句を云わない事がたいせつです。 私たちがやろうとしている文化交流という目的の重要さに比べれば取るに足らない事!」 と。
なんと素晴らしいアーティスト気質でしょう!
劇場にはエアコンが無く、とてつもない暑さと、汗かきの彼には大変な苦痛のようでした。 そんな中、誰かの差し入れで、手に持てるほどの電池式の小さな扇風機が、命を救ってくれた! と、この小さな扇風機の考案者に感激したのだそうです。
パヴァロッティもはしゃぎ手中の扇風機
(パヴァロッティもはしゃぎしゅちゅうのせんぷうき)
公演の合間に、西洋人の耳に張りつめられ、不自然に聞こえる京劇にも、パヴァロッティは大変な興味を抱き、衝動的に自分にもやらせて欲しいと頼んだのです。 メイクアップをしてもらい、着付けをしてもらうまで4時間もかかろうとは知らなっかたが、いったん始めたからには後には引けません。 悪霊退治の守護神のような姿で舞台に出て、一場面を即興で演じました。 後日、撮影された映像を見たとき彼は、「どの歌手が自分なのか分からないほど物まねが上手かった!」 と、自画自賛。 自叙伝「マイ・ワールド」にもこの映像が見当たらないのは残念です。
この旅のドキュメント映画の撮影中、製作者の注文で、撮影のためにパヴァロッティの動きが欲しいと云われ、体重は思いが、いつもベーサロの別荘で乗り回している自転車乗りを提案。 通りすがりの学生に自転車を借りて、天安門広場をぐるぐると回り、「あァ! 私は中国で自転車に乗っているんだ! わたしはうれしくて止める気もしなかった!」 と夢中で走り回ったのでした。
国務院文化部の指示で、パヴァロッティの身の安全にも責任を持たされていた通訳ウー氏は、北京の町を自転車で走り回っているパヴァロッティを見て、引きつけを起こしそうになったそうです。
少年のような髭面のおじさんの単独飛行! ご無事でよかった~!
ベーサロの別荘で日課にしている自転車を楽しむこの写真を とくとご覧ください。 巨体をのせた自転車が今にもパンクしそうです。
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